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2023/10/22

お知らせ

京都国立近代美術館 2023年度 第3回コレクション展 「チョウの軌跡――長谷川三郎のイリュージョン」 ご案内、視察報告

 現在、京都国立近代美術館にて長谷川三郎の代表作《蝶の軌跡》(1937年、同館所蔵)を中心とした企画展示「チョウの軌跡――長谷川三郎のイリュージョン」が開催されています。当ギャラリーからも過去に展示されたことのない5点の作品を出品していますので、ぜひご高覧ください。
 
 本展覧会は、同館が2020年度から実施している作家(Artist)、視覚障害のある方(Blind)、学芸員(Curator)がそれぞれの専門性や感性を生かして協働し、京都国立近代美術館の所蔵作品の新たな鑑賞プログラムを開発する「ABCプロジェクト」の一環として企画されました。
今回は中村裕太氏(Artist)、安原理恵氏(Blind)、松山沙樹氏(Curator)の三者による抽象絵画作品《蝶の軌跡》の新たな鑑賞方法の模索がテーマとなっており、視覚と知覚そして触覚を生かした作品解釈の提案が展開されています。
 
 会場は大きく二部に分かれており、一つは同館の優れたコレクションを中心とした展示、もう一つは三者の協働から生まれた「触図」(作品の構図や色合いなどを触覚情報に変換・翻案して表した図)による触れる展示で構成されています。
一部では《蝶の軌跡》を中心に長谷川三郎と影響関係にあった作家たちの作品、中村裕太氏による調査研究をもとにした作品、《蝶の軌跡》と同時期に制作されたと考えられる長谷川三郎の作品が並べられ、難解な作品を紐解く鍵となります。
そして二部では、《蝶の軌跡》と同じ大きさのキャンバスの上で、三者が長谷川三郎の筆致をなぞりながら言葉を交わし、また図録や美術雑誌などの文献資料を読み合わせながら制作された同作品の触図をはじめ、一部に展示されている14点の作品と対応する触図を実際に触りながら鑑賞することができます。
 
 今回の企画は、工芸品や立体作品あるいは具象的な絵画とは異なり、抽象絵画を触覚で鑑賞するという新しい試みです。三者がコミュニケーションを介して、三様に頭に浮かべる「これはなんだろう」という思いは視覚、触覚の感覚を問わず、本来あらゆる作品鑑賞に共通する問いではないでしょうか。普段、視覚や知覚に依って作品を理解したつもりでいると忘れてしまいそうになる根源的な問いを、私たちの身体を通して引き出してくれる刺激的な展覧会です。長谷川三郎もまた物事を外から理解するだけでなく、「つくる」ことや「みる」ことを通して自身あるいは鑑賞者の内面にあるものを引き出そうとしていたのかもしれません。
 ぜひ皆様も体験してみてはいかがでしょうか。 

(長谷川三郎記念ギャラリー 学芸員 松永)

 

会期 :2023年10月5日(木)~12月17日(日) 月曜休館
開館時間 :午前10時~午後6時
   *金曜日は午後8時まで開館(10月6日と12月15日を除く)
   *入館は閉館の30分前まで
会場 :京都国立近代美術館 4階 コレクション・ギャラリー内
入場料 :一般430円、大学生130円、高校生以下・18歳未満・65歳以上は無料

*そのほか詳細は美術館公式HPよりご確認ください(https://www.momak.go.jp

 
 
関連Webサイト:

「ABCコレクション・データベース Vol.3 長谷川三郎《蝶の軌跡》のイリュージョン」
  https://www.momak.go.jp/senses/abc/hasegawa/
「感覚をひらく 新たな美術鑑賞プログラム創造推進事業 ABCプロジェクト」
  https://www.momak.go.jp/senses/edustudies2023.html

 
 
写真上から順に

  1. 長谷川三郎《蝶の軌跡》1937年、京都国立近代美術館蔵
  2. 長谷川三郎と影響関係にあった作家たちの作品。小出楢重、ピエト・モンドリアン、吉原治良など錚々たる顔ぶれの作品が並ぶ。
  3. 長谷川三郎記念ギャラリーから出品している5点の作品。ラフなドローイングのように見えるが《蝶の軌跡》との関連を感じさせる。
  4. 感覚をひらいてくれる14点の触図。三者で協働したうえで中村裕太氏が陶を用いて制作した。「触る絵画」であり「見る触図」でもある。
  5. 《蝶の軌跡》の触図。安原氏によると、接触することに意義があるというより、いま触っているところが「どのようなものか」を感じることが触覚による鑑賞の鍵。

 
※1〜5筆者撮影(無断転載禁止)